交響詩「ローマの祭り」/O. レスピーギ
交響詩「ローマの祭り」は、“ローマ三部作”の掉尾を飾る作品で、1929年にトスカニーニ指揮/ニューヨーク・フィルによって初演されました。単一楽章の中で4つの場面が切れ目なく続き、古代から20世紀まで、時代の異なるローマの4つの祭りの風景を、極めて派手で色彩的なオーケストレーションで描きます。
ローマ三部作の中でも最も大編成な本作品は、舞台上のオーケストラに加え、舞台外のファンファーレ隊、豊富な打楽器、マンドリン、ピアノ、オルガンなどを用いることで、祝祭の喧騒や宗教的な響き、街の雑踏を立体的に再現しています。構成は次の4部からなり、それぞれにレスピーギ自身が標題を付しています。
第1部 チルチェンセス CIRCENSES
ユウェナーリスの『諷刺詩』第10歌の「panemet Circenses パンとサーカスを」でよく知られる、古代ローマの円形闘技場(Circus)で行われた、猛獣とキリスト教徒の凄惨な見世物興行を描きます。冒頭、観客の歓声とブッキーナ(古代ラッパ)を模したトランペット隊のファンファーレが交互に現れ、次第に渾然一体となって、闘技場の熱気は高まっていきます。やがて、断末魔とも閉門の音とも取れる冷酷な低音楽器のトゥッティに収束します。中間部では、殉教者たちへの祈りを象徴する讃美歌風の旋律が静かに歌われますが、低音楽器が唸るようなモチーフで割り込み、再び暴力的な場面へと引き戻します。最後は観衆の狂乱が爆発し、燦然かつグロテスクなユニゾン*で幕を引きます。
第2部 五十年祭 IL GIUBILEO
場面は時代を下って中世。50年ごとに行われるカトリックの聖年祭へ向かう巡礼者たちを描きます。静かな弦の揺れと、木管の物憂げな旋律から始まり、疲れ切った巡礼者が祈りを唱えながらローマを目指して歩く姿がイメージされます。モンテ・マリオの丘の頂上に達し、遠くに永遠の都ローマを望むと、歓喜の叫び「ローマだ! ローマだ!」が湧き上がり、それに応えて教会の鐘が鳴り響きます。ここでは古い讃美歌「Christ isterstanden」(キリストは蘇り給えり)が引用され、オルガンと鐘を含む壮麗なクライマックスが築かれます。しかし栄光の頂点の後には静けさが戻り、カトリック信仰の敬虔さを印象づけます。
第3部 十月祭 L’OTTOBRATA
ルネサンス期のローマ郊外、カステッリ・ロマーニ地方で行われる葡萄収穫祭がテーマです。ホルンの狩りのファンファーレに導かれ、軽快なリズムと舞曲風のメロディが次々に現れ、豊作を祝う民衆の踊りや酒宴の場面が目に浮かびます。やがて夕暮れ、あるいはほろ酔い気分を思わせる静かな場面に移り、マンドリンとソロ・ヴァイオリンによるロマンティックなセレナーデが歌われます。ここでは喧騒から距離を置いた親密な愛の歌が広がり、人間味ある田園的な温かさが濃く表現されます。
第4部 主顕祭 LA BEFANA
最後の場面は20世紀の現代ローマ、ナヴォーナ広場での主顕祭前夜の大騒ぎです。主顕祭(ベファーナ)はカトリックでは非常に重要な祝日で、その前夜祭はクリスマス以上とも言われるほどの熱狂を伴います。音楽は冒頭から速いテンポと強烈なサルタレロ*のリズムで進み、屋台の手回しオルガン、売り子の声、踊り狂う人々、子どもたちのはしゃぎ声などが、小クラリネットの鋭い音型、トロンボーンのグリッサンドによる酔っぱらいの歌、ストルネッロ(ローマ方言の歌)風の素朴な旋律などとともに、音楽的コラージュとして表現されます。クライマックスでは管楽器がサルタレロのリズムで狂乱のオスティナート*を繰り返し、打楽器群のリズムも躍動して、圧倒的なユニゾンのうちに終結します。
ユニゾン:複数のパートが同じ音型・同じ旋律を同時に演奏すること
サルタレロ:イタリア語で「跳ぶ」を意味するsaltare が由来の速いテンポの舞曲
オスティナート:イタリア語で「頑固な、しつこい」を意味し、同じ音型やリズムパターンを繰り返し演奏すること
楽器編成:フルート3(1本はピッコロ持ち替え)、オーボエ2、イングリッシュホルン、クラリネット2、ピッコロクラリネット、バスクラリネット、ファゴット2、コントラファゴット、ホルン4、トランペット4、トロンボーン3、テューバ、ブッキーナ3、ティンパニ、シンバル付きバスドラム、スネアドラム、テナードラム、タンバリン、シンバル、トライアングル、銅鑼、鈴、ラチェット、タヴォレッタ(2枚の板)、グロッケンシュピール、シロフォン、鐘、ピアノ、オルガン、弦5部、マンドリン
演奏時間:約25分
