打楽器とオーケストラのための協奏曲 /A. ジョリヴェ

音楽の根源へ / ジョリヴェと「呪術的」リアリズム
 20世紀のフランス音楽界において、アンドレ・ジョリヴェは極めて特異な位置を占めています。彼は、師であるエドガー・ヴァレーズから受け継いだ「音響そのものの物理的衝撃」と、自身の探求による「古代文明や東洋の神秘思想」を融合させました。
 1936年、彼はオリヴィエ・メシアンらと共に「ラ・ジューヌ・フランス(若きフランス)」を結成します。当時、新古典主義的な知性主義が主流だった楽壇に対し、彼らが掲げた旗印は、音楽が本来持っていた「人間的な情熱」や「儀式性」の回復でした。ジョリヴェにとって音楽とは、文明によって飼いならされる前の、宇宙のエネルギーと交信する「魔術的な力」に他なりませんでした。
 1958年に作曲されたこの『打楽器とオーケストラのための協奏曲』は、彼の創作活動の円熟期を象徴する作品であり、打楽器という「人類最古の楽器」を現代音楽の最前線へと解き放った記念碑的な傑作です。

ソリストに課せられた試練
 本作を演奏する際、ステージ上には壮観な光景が広がります。ティンパニ、スネアドラム、バスドラムといった膜鳴楽器。シロフォン、ヴィブラフォンといった鍵盤打楽器。さらには、ウッドブロック、カウベル、シンバルなど、20種類を超える楽器が舞台上に配置されます。
 ソリストには超絶的なテクニックだけでなく、多数の楽器を柔軟に操る身体性、そして音楽を一つの「儀式」として成立させる圧倒的なエネルギーが求められます。



第1楽章:Robuste(力強く)

ティンパニ×4、スネアドラム、テナードラム、ウッドブロック

 冒頭、ファンファーレ風の強烈な和音と共に、ティンパニの鋭い打撃が炸裂します。この楽章は、ジョリヴェが理想とした「原始的な生命力」の爆発です。まず、膜鳴楽器群(ドラム類)が主導する複雑な複合リズムが、聴き手の時間感覚を揺さぶります。
 ここでの打楽器は、メロディを支える伴奏ではなく、音楽の構造そのものを規定する主役です。金管楽器の叫びのようなフレーズと、打楽器の無機質ながらも力強いパルスが衝突し、火花を散らします。終盤ソリストは、休むことなくアクセントを移動させ、聴き手を迷宮のようなリズムの渦へと引き込んでいきます。

第2楽章:Dolent(悲しげに)
ヴィブラフォン、サスペンディッドシンバル、チャイナシンバル

 激動の第1楽章から一転し、静寂と神秘が支配する楽章です。ここではヴィブラフォンが主役となり、ジョリヴェの「呪術的・瞑想的」な側面が色濃く現れます。
 薄暗い密林の奥底で、何らかの儀式が執り行われているかのような、妖しくも美しい響き。ヴィブラフォンの長い余韻がオーケストラの弦楽器と溶け合い、東洋的な音階や微分音を思わせる響きが「祈り」のように紡がれます。時折挿入されるチャイナシンバルの響きは、宇宙の深淵を覗き込むかのような畏怖の念を抱かせます。打楽器が「旋律楽器」として、いかに雄弁に感情を語り得るかを証明する、本作の核心とも言える楽章です。

第3楽章:Rapidement(速く)
シロフォン、カウベル×3、ラチェット、鞭

 この第3楽章は、終曲への加速装置としての役割を担います。執拗に繰り返されるオスティナート(反復音型)が、聴き手の高揚感を煽ります。
 ここで注目すべきは、シロフォン(木)とカウベル(鉄)のドライで硬質な響きの対比です。オーケストラと複雑に絡み合いながら、急速なパッセージが駆け抜けます。多様なフレーズが積み重なる一方、音楽は強固な意志を持って前進し続けます。それは、現代都市のメカニカルな動きのようでもあり、あるいは土着的な祭礼の熱狂が最高潮に達する直前の興奮のようでもあります。

第4楽章:Allègrement(快活に)
バスドラム×2、トムトム×3、スネアドラム、テンプルブロック×3、ウッドブロック、鈴、サスペンディッドシンバル、チャイナシンバル、ハイハットシンバル、合わせシンバル

 全曲のクライマックスを飾るこの楽章では、1950年代当時のジャズ、アフリカ音楽のダイナミズムが融合しています。シンコペーションを多用した軽快かつ攻撃的なリズムが支配し、オーケストラ全体が巨大な打楽器と化したかのような一体感を見せます。
 ソリストは舞台上の楽器群を駆使し、単なるテクニックの誇示ではなく、原始の叫びから現代の知性までを網羅する壮大な「音のドラマ」を表現します。全楽器が渾然一体となり、熱狂が最高潮に達した瞬間、衝撃的な結末を迎えます。

結びに
 この協奏曲は、打楽器という「もっとも原始的で、もっとも新しい楽器」を通じ、現代社会が忘れかけている生命の根源的な叫びを呼び起こします。ステージ上に並んだ色とりどりの楽器たちが、ソリストの手によって一つの生命体のように躍動する様を、どうぞ五感でお楽しみください。



楽器編成:フルート2 (1本はピッコロ持ち替え)、 オーボエ、イングリッシュホルン、アルト・サクソフォーン、クラリネット、ピッコロクラリネット、ファゴット2、ホルン4、トランペット2、トロンボーン2、テューバ、ピアノ、弦5部
(独奏打楽器は本文参照)

演奏時間:約17分